人手不足が深刻化する昨今、外国人材の力は日本企業にとって欠かせないものとなっています。しかし、そこで最も警戒しなければならないのが、入管法に定められた「不法就労助長罪(ふほうしゅうろうじょちょうざい)」です。
「うちは派遣会社に任せているから大丈夫」「悪意を持って雇っているわけではない」
そう思っていませんか? 実は、「知らなかった」や「確認不足だった」でも、会社側も逮捕されるのがこの法律の恐ろしいところです。今回は、基礎知識と最新の摘発事例を交えて解説します。
1. そもそも「不法就労助長罪」とは?
一言で言えば、「働かせてはいけない外国人を雇用した事業主、またはそれを斡旋した者を処罰する」ということです。
具体的には、以下の3つのケースが考えられます。
不法滞在者・被退去強制者の雇用
オーバーステイ(不法残留)や密入国した人を働かせること。
就労不可の外国人の雇用
観光ビザ(短期滞在)や、許可を得ていない留学生などを働かせること。
在留資格の範囲を超えた業務に従事させる
このケースが一番多いかと思います。「技術・人文知識・国際業務」や「技能」のビザを持つ外国人を、許可されてない業務で労働させたり、「特定技能」の区分と違う内容で働かせたりすること。
経営者に「不法就労させよう」という意図がなくても、在留カードの確認を怠ったなどの過失があれば処罰の対象になります。
2. 【2024-2025年】他人事ではない!最新のリアルな摘発事例
警察や入管の摘発は年々厳しくなっています。「うっかり」では済まされない、実際の逮捕事例を見てみましょう。
事例①:派遣だからと油断禁物!受入企業も逮捕
(2025年9月報道)
概要: 「農業」分野の特定技能ビザしか持たないインドネシア人を、許可されていない「クリーニング工場(リネンサプライ業)」で働かせた事例。結果: 人材派遣会社の社長だけでなく、受け入れ先であるクリーニング工場の役員も逮捕されました。
結果: 人材派遣会社の社長だけでなく、受け入れ先であるクリーニング工場の役員も逮捕されました。
教訓: 「派遣会社が連れてきたから大丈夫だろう」は通用しません。受け入れ企業にも、自社で働く外国人の在留資格を確認する義務があります。
事例②:SNS採用のリスク、不法滞在者を雇用
(2024年10月報道)
概要: 解体工事会社の社長が、在留期限が切れてオーバーステイ状態のベトナム人4人を雇用し、現場で働かせた事例。
結果: 社長を入管難民法違反の疑いで逮捕。SNSを通じて知り合い、雇用関係を結んでいたようです。
教訓: 人手不足によりSNS等で手軽に募集をかけるケースが増えていますが、在留カードの現物確認を怠ると致命的です。「知らなかった」では済まされません。
事例③:在留資格の範囲を超えての就労
(2025年11月報道)
概要: 野菜加工会社が、在留資格「技術・人文知識・国際業務」にて在留するインド人等を工場で働かせた事例。
結果: 社長らが再逮捕されています。
教訓: 許可されてない仕事を外国人に就労させてはいけません。
3. 会社が負うペナルティは甚大です
もし不法就労助長罪で有罪となった場合、以下の刑事罰が科されます。
3年以下の懲役 または 300万円以下の罰金(あるいはその両方)
しかし、経営者にとってさらに恐ろしいのは「社会的制裁」と「行政処分」です。
- 企業名の公表: ニュースで社名が出れば、取引先や金融機関からの信用は地に落ちます。
- 許認可の取り消し: 建設業許可や派遣業許可などが取り消される可能性があります。
- 今後の雇用禁止: 5年間は新たに外国人を雇用することができなくなります(特定技能などの受け入れ停止)。
4. 経営者が今すぐやるべき対策
自社を守るために、以下の3点は徹底しましょう。
- 在留カードの「現物」確認 コピーや写真ではなく、必ず原本を確認してください。偽造カードが出回っています。出入国在留管理庁より発表されている「在留カード等読取アプリケーション」を使用して在留カードをチェックするのも有効です。
- 「就労制限の有無」をチェック 在留カードの表面に「就労不可」とあっても、裏面の「資格外活動許可」があれば週28時間まで働けます。表と裏、両方の正確な読み取りが必要です。
- 在留カード等番号失効照会の利用 出入国在留管理庁のウェブサイトで、カード番号が有効かどうかを誰でも確認できます。採用時の必須フローに組み込みましょう。
まとめ
外国人の雇用は、企業の成長にとって大きなチャンスですが、同時に正しい法的知識がなければ大きなリスクにもなり得ます。
「このビザで、この仕事をお願いして本当に大丈夫か?」
少しでも不安を感じたり、複雑なケース(転職者の採用など)に直面した際は、自己判断せずに必ず専門家やお近くの入国管理局にご相談ください。コンプライアンスを守ることが、あなたの会社と従業員を守ることに繋がります。


